悪女にされた女性たち

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(イ・サンが建設した水原の“華城:ファソン” の行宮正門:2015年撮影)

歴史に揺れた女性と歴史を動かした女性たち

パリで生まれたイタリア人の経済・社会学者にパレートがいます。
彼の功績は、今でも何かと使われる2対8の比率で、「パレート最適の法則」。
統計手法を用いて、およそ2割の高額所得者が国富の8割を占めているという実証を行ったからです。
例えばハチやアリでも、働いて実績を上げているのは、約2割だとの生物学的な分析もあります。

<王朝時代>の王族と両班の人口はおおよそ全体の1割とされます。
9割の庶民が圧政に苦しんでいたので、小説「洪吉童伝」などが生まれたのだと思います。
今日は転じて、これまでのドラマや本での知識から、女性たちの王朝について触れておきます。
悪女とは…? です。
現代は民主憲法とその下にある法律で犯罪が明確になっていますが、それでもモラルとか価値観は人によって多様なので、以下は私の個人的な考えだと思って下さい。

もしも、良い人と普通の人と悪い人が、1対8対1の比率であれば、悪い人が1割で残る9割は問題がないので、この世はおよそ平穏であるはず。
しかし、例えばサッカーファンが勝った負けたで相手チームのファンたちと喧嘩するみたいな、感情が先に立つと理性が失われていくので、1対9の比率が激変することが起きる。
先の米国大統領選挙の際に、ヒラリー・クリントンが主張していた、“民族性や宗教上の非寛容を許してはいけない”は、とても大切だと思います。
相手を受け入れて仲良くしたいもの。

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王妃のヘアスタイル(左:パク・ハソンのテスモリ 右:ハン・ヒョジュのトクジモリ)

1.7つの戒律と7人の廃妃

アバウトに男尊女卑と言うよりも、次の戒律を列挙した方が適格だと思います。
「七去之悪(チュルゴジアク)」といわれた<王朝時代>の離婚の要因です。

・嫁として夫の両親に仕えること
・跡継ぎの息子を生まなかったこと
・不倫(#)
・嫉妬深いこと
・病弱であること
・おしゃべり
・人を騙すこと

# こんな文化はあの当時だけではなかったのではないでしょうか?
ちなみに、
“姦通罪”が憲法裁判所(日本の最高裁にあたる)で違憲とされたのは2000年代に入ってからのことです。

また、7つの“ダメ出し”以外にも、
「出嫁外人(チュルガウェイン)」といって、“嫁いだら外の人”…、
なので、「もう実家の人ではないから、帰るな」と言われた…。
何とも不自由な時代だったかと思います。

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(『チャン・オクチョン』のユ・アインとキム・テヒ)

次いで廃妃の7人を列挙します。
(正室の座から廃妃(ぺビ)または降格された7人の王妃)

①第6代王・端宗の正室・定順王后
②第10代王・燕山君の正室・(廃妃)慎氏
③第11代王・中宗の正室・(廃妃)慎氏
④第15代王・光海君の正室・(廃妃)柳氏
この4人はクーデターでの夫の廃位による結果。
なお、ドラマ『逆賊』に出たように、端宗は廃位されて魯山君(ノサングン)と降格しましたが、およそ200年後に追尊されて、廃妃・宋氏も定順王后とおくり名をもらいました。
上記の中宗の正室は燕山君の正室と同じファミリーから嫁いでいたからで、これは“とばっちり”だと思います。

⑤第19代王・粛宗の正室・仁顕(イニョン)王后
⑥そして張禧嬪(チャン・ヒビン:禧嬪・張氏)
(ドラマ『トンイ』、『チャン・オクチョン』であまりにも有名)
この二人は老論派と小論派という“政争の具”となってしまいました。

こうしてみると、
⑦7番目にあげる(先に書いた)「王の顔を引っ掻いた王妃(廃妃)」
第9代王・成宗の2番目の正室で、燕山君の母・済献(チェホン)王后・尹(ユン)氏だけが、とてもユニークな存在だったことが分かります。
現代では、単に“夫の顔”といえばそれまでですが、上記の”嫉妬禁止”の王政の時代なので、“尊(龍)顔を引っ掻く”のは社会問題となって周囲からも“納得された廃位”だったのでしょう。
ただし、ひとつ指摘しなかった点は彼女は12歳年上の妻だということ。
姉さん女房なので、年功序列の社会では“ヌナ”
なので、心理的には廃妃の方が上位だったかもしれません。
http://jumong007.blog133.fc2.com/blog-entry-3145.html

また、『トンイ』と『チャン・オクチョン』を描いたドラマの視点は180度違っていて、良し悪しの評価が紙一重の差だと思います。
いずれにせよ、女性の中でも歴史に名を残した点では「命を懸けて」一生を羽ばたいた。

2.表の悪女と裏の悪女

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(『逆賊』の張緑水)

(1)表の悪女

男尊女卑の<王朝王朝>の中で、例えば両班の妾になるとか、女官への道から側室になるとか、上昇志向が強かったのが張緑水(チャン・ノクス)だったようです。
つまり、“貧乏は嫌だ”。
そして、たった一度の人生だから“可能ならば社会進出したい”という高い望みを持っていたのだと思います。
彼女は分かり易い存在です。
なので、チャン・ヒビン・オクチョン(禧嬪・張氏)と並んで、一般的な“悪女”の代表になっています。
ただし、
当時のモラル基準からも、現代のモラル基準からも“いわゆる悪女”として同列には扱えないと思います。
禧嬪・張氏は政争の具にされただけ。
MBCは『逆賊』により、性格的に激しい面を持った張緑水を描いています。

他方では、戦々恐々として派閥の看板の陰にいた男たち(官僚)のことが小動物に思えます。
人道的な観点から、あるいは儒教の基本的な思想から、男たちは女性との対話やコントロールを考えなかったのでしょうか?

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(左から、『トンイ』の粛宗、トンイ、チャン・ヒビン、内禁衛将)

(2)裏の悪女

『イ・サン』は名君だった第22代王・正祖を描いたドラマでした。
祖父の第21代王・英祖は官僚の派閥を上手く束ねて、またイ・サンはその力を弱めることに成功したとされます。
イ・サンが亡くなったのが1800年。
19世紀がやって来て、国際情勢が大きく変化を見せていた頃です。
既にフランスでは革命が起きて、ヨーロッパは市民社会へと移行が始まっており、また米国が独立したのは1776年です。

ここで政権を牛耳っていた二人の女性
この二人は女性の社会進出に成功したとはいえ、政府のトップに立つ者の資質として、国際感覚がなく排他的(非寛容)だったので、民百姓の民主化を遅らせたと思います。

①半島では、60代の第21代王・英祖(ヨンジョ)に10代で嫁いだ(正室)貞純(チョンスン)王后(1745~1805年)が、イ・サンの祖母として歴史に登場しました。
第22代王・正祖(ソンジョ:イ・サン)が亡くなったのがちょうど1800年です。

サンの息子がまだ10歳だったので、簾の背後から政治を操る貞純大妃の「垂簾聴政」が始まりました。
民主主義の観点から見ると、彼女の歴史的な罪は宗教上で排他的であったこと。
その60年の生涯の中において、天主教(カトリック)を弾圧し、フランス人宣教師を含めて数万におよぶ信者を殺害しました。
天主教が持つ平等思想が身分制度の国にとっては不都合だったからです。

②次いで、イ・サンの息子・第23代王・純祖(スンジョ)の正室・純元(スヌォン)王后(1789~1857年)。
少年の王に嫁いだわけですから、彼女も少女時代。
しかし、背後にいたのが実家の安東(アンドン)・金氏です。
純元王后の68年の生涯のほとんどにあたる、60年間くらいが「勢道(セド)政治」といわれ、実家の金氏が政権を掌握しました。
賄賂が横行した腐敗政治の時代だとされます。
彼女には罪はないかもしれませんが、この時代はドラマで美化するのが非常に難しいと思います。

3.朱子学一辺倒の“失われた100年”だった…。

儒教のオリジナルの経典として一般に挙げられるのはは四書五経。
しかし、時代の変遷と共に生まれた亜流の「小学」の朱子学は、為政者に都合よく利用されたと思います。
江戸時代も<朝鮮王朝>も、身分制度、男尊女卑、他宗教への不寛容により庶民社会を統治したと断言しても良いと思います。
平等思想のキリスト教を弾圧したのは、この為政者のご都合によるものだと思います。
また、民主化の遅れもここにあると考えています。

先週の『逆賊』を視聴していて、やはり…。
と思ったのは、ギルヒョンとギルドンの妹のオリニに記憶障害があって、兄たちのことを覚えていないこと。
そればかりか、“守貴単”の師匠たちから洗脳されているようです。
ギルドンの妻・カリョンに対して、「王からの寵愛を受けるにも順番がある」と、オンニにあたる女性に突っかかっています。

しかし、宗教的に寛容となってきたのが<朝鮮王朝>の末期だったと思います。
近代化を進めようと、高宗にも明成皇后にも、勢道政治から脱却した国際感覚がありました。
第26代王・高宗の在位1863年からのドラマ『明成皇后』は、日本との関係のイメージが分かり易かったです。
ただし、衰退する大陸の清ではなくて、いち早く近代化を進めた日本との関係が良好だったならば…、
と思うと残念です。

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(イ・サンと高宗;
 国立故宮博物館のガイドから聞いた話です。
 第21代王・英祖と第22代王・正祖は、もとは英宗と正宗だったが、第26代王・高宗により追尊され、
 それぞれ、英祖と正祖の謚が贈られたそうです)

(以上は次を参考にしました)
康煕奉『悪女たちの朝鮮王朝』双葉社(2014.06)
朴永圭『朝鮮王朝実録(改訂版)』キネマ旬報社(2015.10)など。

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絶対王権→立憲君主制→民主主義へと、大きな歴史の波が押し寄せる中で、その波に乗った国々と、乗り遅れた国々の市民生活には大きな差が生まれたのだと思います。
冬が終われば春が来る。
当たり前のように春風を享受して、当たり前ですが、“民主主義”の時代に生まれて良かったなと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=dq1z1rkjw-E

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# 明日から4日間はイ・サンの映画『逆鱗』を再編集してアップします。

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